大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)5018号 判決 1989年8月29日
第一事件原告
新倉正則
第一事件被告
村上哲信
第二事件原告
株式会社共進
第二事件被告
新倉芳美
主文
一 第一事件被告は第一事件原告に対し、金一六万八七五六円及びこれに対する昭和六三年三月一六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 第二事件被告は第二事件原告に対し、金七三万七一〇〇円及びこれに対する昭和六三年三月一六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 第一事件原告のその余の請求及び第二事件原告のその余の請求はいずれも棄却する。
四 訴訟費用中、第一事件について生じたものは、これを一〇分し、その七を第一事件原告の負担とし、その余を第一事件被告の負担とし、第二事件について生じたものは、これを一〇分し、その七を第二事件被告の負担とし、その余を第二事件原告の負担とする。
五 この判決は、主文第一、二項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 第一事件の請求の趣旨
1 第一事件被告(以下、単に「被告」という。)は第一事件原告(以下、単に「原告」という。)に対し、金五六万二五二〇円及びこれに対する昭和六三年三月一六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 第1項につき仮執行宣言
二 第一事件の請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
三 第二事件の請求の趣旨
1 第二事件被告(以下、「反訴被告」という。)は第二事件原告(以下、「反訴原告」という。)に対し、金一四六万円及びこれに対する昭和六三年三月一六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は反訴被告の負担とする。
3 仮執行宣言
四 第二事件の請求の趣旨に対する答弁
1 反訴原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 第一事件の請求原因
1 交通事故の発生
(一) 日時 昭和六三年三月一六日午前二時一四分ころ。
(二) 場所 大阪府豊中市長興寺北一丁目二番四八号先路上(交差点、以下、「本件交差点」という。)。
(三) 事故車 (1) 原告所有、反訴被告運転の普通乗用自動車(大阪五八な四三三五、以下、「原告車」という。)
(2) 反訴原告所有、被告運転の普通乗用自動車(大阪三三ぬ八九一〇、以下、「被告車」という。)
(四) 態様 信号機により交通整理の行われている交差点における出会い頭の事故であり、東から西へ進行して本件交差点に進入した被告車の左後部が、南から北へ進行して本件交差点に進入した原告車の右前部に接触衝突したもの。
2 被告の責任
本件事故当時は深夜であり、車両の通行も少なかつたところ、被告車の対面信号が、本件交差点進入前に黄色から赤色に変わつたのであるから、被告は本件交差点の手前で停止しなければならなかつたにもかかわらず、交差道路を通行する車両がないものと軽信し、または対面信号が黄色から赤色に変わつたことを見落とし、漫然と時速四〇キロメートル以上の速度で本件交差点に進入したために本件事故が発生したものであり、被告に過失があることは明らかである。
3 原告の損害
本件事故により原告車は右前部を損壊し、その修理費として金五六万二五二〇円を要した。
4 よつて、原告は被告に対し、民法七〇九条に基づき不法行為による損害賠償金五六万二五二〇円及びこれに対する本件事故発生日である昭和六三年三月一六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 第一事件の請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2は否認する。本件事故当時、被告車の対面信号は青色を表示していたものであり、それに従い本件交差点に進入した被告には何らの過失はなく、本件は、信号を無視して本件交差点に進入してきた原告車運転の反訴被告の一方的過失に基づく事故である。
3 同3は否認する。
三 第二事件の請求原因
1 交通事故の発生
第一事件の請求原因1と同じ。
2 反訴被告の責任
本件事故は、被告車が対面信号機の青色表示に従い本件交差点に進入し、右交差点を通過し終ろうとした時点で、信号を無視して左側より本件交差点に進入してきた反訴被告運転の原告車と衝突したものであり、反訴被告の信号無視という一方的過失に基因するものである。したがつて、反訴被告には、反訴原告の後記損害を賠償する責任がある。
3 反訴原告の損害
本件事故により、反訴原告所有の被告車は左後部を損壊され、反訴原告は次のとおり合計金一四六万円の損害を蒙つた。
(一) 修理費 金八一万円
(二) 格落ち損害 金六五万円
本件事故により、被告車は右程度の修理を要したため、少なくとも新車価格の一割程度の格落ち損害が生じた。
4 よつて、反訴原告は反訴被告に対し、民法七〇九条に基づき不法行為による損害賠償金一四六万円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六三年三月一六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
四 第二事件の請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
2 同2は否認する。
3 同3は不知ないし争う。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 第一事件について
1 第一事件の請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
2 原告車及び被告車の本件交差点各進入時の各対面信号の表示について検討する。
(一) 右当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない甲第一号証、第三号証の一、二及び乙第二号証の二、三、原告主張どおりの写真であることに争いのない検甲第一ないし第七号証、被告主張どおりの写真であることに争いのない検乙第一号証の一ないし四、証人松永昭義及び同除田修身の各証言、反訴被告及び被告の各本人尋問の結果(いずれも措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(1) 本件交差点は、車道の幅約七・三メートルの東西道路(東行、西行各一車線)と車道の幅約八メートルの南北道路(北行、南行各一車線)の交差する信号機により交通整理の行われている交差点である。
(2) 本件事故当時の本件交差点の南北車両と東西車両の各対面信号の表示周期は次のとおりであつた。
<1> 南北車両 青 東西車両 赤 三四秒
<2> 同 黄 同 赤 三秒
<3> 同 赤 同 赤 三秒
<4> 同 赤 同 青 二四秒
<5> 同 赤 同 黄 三秒
<6> 同 赤 同 赤 三秒
(3) 被告は、被告車を運転して、時速約四〇キロメートル(秒速約一一・一メートル)の速度で前記東西道路を西進中、本件交差点の東側約七〇メートルの地点で本件交差点の対面信号が青色であるのを確認した(なお、被告は、本件交差点の東側約二〇メートルの地点で右信号が青色であるのを確認した旨供述するが、前掲証人松永昭義の証言に照らせば措信しがたい。)。そして、被告車は、その後も本件事故時まで右速度のままで進行した。
(4) 他方、反訴被告は、原告車を運転して、時速約四〇キロメートルの速度で前記南北道路を北進中、本件交差点南側の横断歩道の南端から約一四・五メートル南側に設置された予告信号(この信号は、その南側から本件交差点の南北車両信号を視認することが困難なため設置されていたものであり、その表示周期は、本件交差点の南北車両信号の表示周期と同一であつた。)が赤色を表示しているのを見て、右予告信号の手前で減速し、本件交差点にさしかかつた。その時、原告車の対面信号である本件交差点の南北車両信号も赤色を表示していたが、反訴被告はそのまま進行し、本件交差点南側の横断歩道(この横断歩道の北端は、交差道路の車道の南端より約六・二メートル南側に位置する。)を越えた地点付近で、本件交差点西側の東西車両信号の表示が黄色から赤色に変わつたのを認めた。そして、その直後、反訴被告は、交差道路を西進してくる被告車の灯火を認め、急制動の措置を講じたが及ばず、原告車右前部を被告車左後部ドア付近に衝突させた。
(5) 本件事故後まもなく、本件交差点の南北車両信号の表示が青色に変わつた。
(二) 以上の事実によれば、原告車が本件交差点に進入した時のその対面信号の表示が赤色であつたことは明らかである。
(三) 次に、被告車の本件交差点進入時の東西車両信号の表示についてみるに、右認定のとおり、衝突時には、既に東西車両信号が赤色に変わつていたこと、前記認定のとおり、被告車は秒速約一一・一メートルで走行しており、東西車両信号の黄色の表示時間は三秒であつたこと、衝突地点が本件交差点内のどの地点で、そこから本件交差点東端までの距離がどのくらいであるかについては、証拠上必ずしも判然としないが、前掲検甲第四及び第六号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件交差点の東端から西端までは三三・三メートル(秒速一一・一メートル×三秒)以内であることが明らかであることを総合すると、被告車が本件交差点に進入した時には、その対面信号である東西車両信号は、少なくとも青色から黄色に変わつていたと認めるのが相当である。
そこで、進んで、被告車が本件交差点に進入した時に、その対面信号が黄色から赤色に変わつていたとまで認められるか否かについて検討するに、前示のとおり反訴被告が本件交差点西側の東西車両信号の表示が赤色に変わつたのを見た直後に、西進してくる被告車の灯火を認め、そのすぐ後に衝突していること(この点について、反訴被告は、「東西車両信号が赤色に変わつたのを認めてから衝突するまでの時間は二、三秒だつた」旨供述するが、反訴被告が右信号表示を見た地点が本件交差点南側の横断歩道を北側に越えた地点であつたこと、前掲検乙一号証の一ないし四によつて認められる被告車の損傷状況(左前ドア後部から左後ドアにかけての相当程度の凹損)からみて、原告車はある程度の速度にまで減速していたと考えられるものの、停止寸前の速度にまで減速していたとは考え難く、これらのことからすると、東西車両信号が赤色に変わつてから衝突するまでに、反訴被告の供述するように二、三秒も間隔があつたとは考え難い。)、前示のとおり、衝突地点が本件交差点内のどの地点で、そこから本件交差点東端までの距離がどのくらいであるかについては証拠上必ずしも判然としないことを考え併せると、衝突時に既に東西車両信号が赤色になつていたことから直ちに、被告車の本件交差点進入時も東西車両信号が赤色であつたとまで断じることはできず、その他に被告車の本件交差点進入時の東西車両信号の表示が赤色であつたことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、被告車は、対面信号が黄色を表示しているのに本件交差点に進入し、対面信号が赤色(全赤)の状態の時に原告車と衝突したものと認めるのが相当である。
3 以上の事実によれば、被告には、対面信号が黄色を表示しているにもかかわらず、これを看過して本件交差点に進入した過失があるが、他方、原告車を運転していた反訴被告(原告側)にも、対面信号が赤色を表示しているにもかかわらず、これを無視して本件交差点に進入した過失があるから、前記事故態様等に照らし、原告の損害額に七〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。
4 反訴被告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第二号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により破損された原告車を福島自動車に依頼して修理し、その費用として金五六万二五二〇円支出したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
5 したがつて、原告が被告に対して請求しうる本件損害賠償金の額は、原告の右損害金五六万二五二〇円に七割の過失相殺をした金一六万八七五六円であるというべきである。
二 第二事件について
1 第二事件の請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
2 前記一2、3判示のとおり、原告車を運転していた反訴被告には、対面信号が赤色を表示していたにもかかわらず本件交差点に進入した過失があるものといわなければならない。他方、被告車を運転していた被告(反訴原告側)にも前記一3判示の過失があるので、これを考慮して、反訴原告の損害額に三割の過失相殺をするのが相当である。
3 そこで、反訴原告の損害について検討する。
(一) 修理費
被告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一号証を総合すると、反訴原告は、本件事故により破損された被告車(BMW、昭和六二年式、E―五三五)を株式会社福田鈑金に依頼して修理し、その費用として金八一万円支出したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(二) 格落ち損害
鑑定の結果によれば、鑑定人は、被告車の本件事故による修理の完了した時点である昭和六三年四月六日における事故減価額(同年製、同型式、同程度の車両で、事故歴のない車両と事故歴のある車両との価格差)が金四七万四一〇〇円である旨の意見を述べていることが認められる。
ところで、成立に争いのない乙第三号証及び弁論の全趣旨によれば、反訴原告は、右修理の完了した約二か月後の昭和六三年六月四日に、被告車を株式会社服部モーター商会に売却した事実が認められるが、反訴原告は、右売却代金及び右売却当時の被告車と同年製、同型式、同程度の事故歴のない車両の査定価格を主張、立証しない。このことからすると、反訴原告が前記鑑定意見上の事故減価額以上の損害を右売却を通じて現実に蒙つたかどうかは必ずしも明確でなく、実際の事故減価額が鑑定意見上の事故減価額を下回つていた可能性を否定しえない。そして、このような可能性が存する以上、右鑑定の結果のみでは、反訴原告が前記事故減価額(金四七万四一〇〇円)以上の損害を現実に蒙つたことまで認定するに足りない。
しかしながら、前示の被告車の車種、年数、型式、本件事故による損傷状況、修理に要した費用を総合し、修理完了時点の事故減価額に関する前記鑑定意見及び反訴原告が右修理完了の約二か月後に被告車を売却していることに鑑みれば、被告車には格価落ちがあり、その程度は少なくとも修理費の三割に相当する金二四万三〇〇〇円を下るものではないと推認することができる。
(三) 以上のとおり、反訴原告の蒙つた損害合計金額は、金一〇五万三〇〇〇円である。
4 したがつて、反訴原告が反訴被告に対して請求しうる本件損害賠償金の額は、反訴原告の損害金一〇五万三〇〇〇円に三割の過失相殺をした金七三万七一〇〇円であるというべきである。
三 以上の次第であつて、第一事件における原告の請求は、金一六万八七五六円及びこれに対する本件事故発生日である昭和六三年三月一六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求部分は理由がないからこれを棄却し、第二事件における反訴原告の請求は、金七三万七一〇〇円及びこれに対する本件事故発生日である昭和六三年三月一六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求部分は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 本多俊雄)